会いたい。 会いたい。 七条さんに会いたい。 今すぐに会いたい。 会って、ぎゅって抱きしめてもらいたい。 ぎゅっ、と七条さんを抱きしめたい。 抱きしめて、抱きしめられて。 七条さんを感じたい。 触れて、触れられて。 愛されてるって感じたい。 愛してるって伝えたい。 今はもうそれだけしか考えられない。 でも、これは今七条さんに言っちゃいけない。 七条さんは優しい。 きっと俺が寂しいと言えば寂しくない様にしてくれる。 でもそれじゃ駄目だから。 大好きな七条さんの『お荷物』にはなりたくないから。 だからこの気持ちを今言っちゃいけない。 この気持ちは、まだ七条さんには内緒なんだ。 夏の手紙 部屋の外から聞こえるセミの鳴き声が、ただでさえ気温の高い夏を更に蒸し暑く感じさせる。 一応夏の風物詩である風鈴を持って、気分だけでも涼しくなろうと試みてはみるものの、暑いものは暑い。 クーラーを作動させれば涼しくなるのは分かっていても、窓から入ってくる風が学園とも繋がっているような気がして、クーラーで涼もうという気にはなれなかった。 もう何日会っていないんだろう。 夏休みも学園に残って過ごしていた八月の頭に母親から掛かってきた一本の「お盆だから帰ってきなさい」という電話で、俺は久しぶりに帰省していた。 夏休みの前半は七条さんや西園寺さん達と毎日のようにあちこちに出掛け、篠宮さんと和希と一緒に夏休みの宿題を片付けていた。 楽しかったなぁ・・・。 ぼんやりと窓から見上げる空は青く澄み切っている。 時折思い出したように吹く風が髪を揺らす。 みんな、今頃どうしてるかな。 何をするでもなくただぼーっと空を見つめていると、家の前に一台の自転車が止まった。 「何だろ。」 自転車の荷台には少し大きめの赤い箱が乗せられている。 「伊藤さん、郵便でーす。」 元気の良い声が階下から聞こえてくる。 いつもならバイクでやってきていたのだけれど、夏休みだからアルバイトの学生さんが配っているみたいだ。 ああ、郵便か・・・。 そんな事を考えてハッとする。 「暑中見舞いっ!」 自分で思うのもなんだけれど、良いアイディアだと思う。 「やっぱり夏といったらこれだよな。」 善は急げと、ばたばたと階段を下りる。 「母さん、葉書ある?」 俺の慌てた様子に少々驚きながらも、数枚の葉書を出してくれた。 いち、にい、さん、よん・・・全部で十枚ある。 七条さんと西園寺さん、和希と王様と中嶋さん、篠宮さんに岩井さんそれから海野先生と成瀬さんと俊介。 「うんっ、ちょうどぴったり。」 お世話になった人たちの顔を思い浮かべながら、一枚一枚に想いを書き込んでいく。 最後の七条さん宛ての葉書を書こうとして、ペンが止まる。 何を書いたら良いのか分からなくなってしまった。 七条さんとは毎日メールでやり取りしているから余計に書けなくなってしまう。 七条さんに言いたい事、伝えたい事。 会いたい・・・でも、会えない。 毎日が切なくて、七条さんに会えない寂しいだなんて書けない。 そんな事書いたらきっと、七条さんは無理をしてでも俺の願いを叶えに来てしまうから・・・こんな事絶対に書けない。 ・・・となると、どうしよう。 結局、考えているうちに一日が終わってしまった。 他の葉書はすらすら書けたのに、七条さんに宛てた葉書だけ未だ真っ白で手付かずのまま。 寝る前になってもう一度良く考えてみる。 椅子に座ったまま、背筋を反らせる。 「会いたい」以外の七条さんに言いたい事、伝えたい事・・・。 「うーん・・・あっ!」 暑中見舞いとは言い難いけれど、今一番七条さんにしたいお願いを書く。 やっと出来上がった暑中見舞いの葉書の束を持って、急いで部屋を出る。 「ちょっと出掛けてくるね。」 そう言って家を飛び出し、近所にあるポストへ走る。 昼間の暑さが残っているようで、夜でもうだる様な暑さだ。Tシャツの背中にはじっとりと汗が滲む。 どんなに急いでも、ポストの郵便を収集しに来るのは早くても八時で、今こんなに急いでもすぐに回収される事が無いのは分かっている。 それでも、少しでも早くこの葉書が七条さんの元に届くように走った。 今回、かなり短いですね。 でもまたしても続くのです。 ラブレターを書いたばかりで、今度は暑中お見舞いを書いております。 今回はちゃんと郵便屋さんに送ってもらうごく普通の手紙なので、差出人も宛名も書いてますよ。 ネタが夏休みものでかなり気が早いのですが、終わるのが夏頃と予想出来ますので丁度良いかな・・・なんて。 啓太君が七条さんに宛てた内容は、今回はまだまだヒミツvです。 もしかしたら最後になるかもしれません。 ここ3日位暑い日が続いたのに、昨日からかなり気温が下がって肌寒く感じますよ。 むむっ。 しばらく夏気分になれないかも知れません。
葵葉奈でした。 |