会いたいのは俺。 だから、俺が会いに行く。 もう我慢出来ない。 早く七条さんの顔を見たい。 だから俺はドキドキしながらちょっとだけ嘘を吐く。 今はだた、七条さんに会いたくて。 七条さんに触れたくて。 俺は決意が鈍らない内に帰る仕度を整えた。 俺が走るよりは遥かに早いバス。 だけど、俺にしてみればそれすらもとても遅い。 赤の信号。 早く青に変わって。 降りた踏み切り。 早く上がって。 これ以上足止めしないで。 早く。 早く。 七条さんに会いたくて堪らない。 夏の手紙 2 夏休み終了目前の八月二十六日。 そろそろみんな学園に戻ってくるからと、俺も荷物をまとめて家を出た。 学園行きのバスの中は、珍しく俺一人で貸しきり状態でとても静かだ。 外は快晴。 澄み切った青い空に、その青に負けじと白い雲がもくもくと大きく自己主張している。 バスの中はクーラーが利いていて程よく過ごしやすい室温。 バスが止まると外から聞こえてくる蝉の鳴き声が夏を演出している。 街路樹の活き活きとした緑の葉の隙間からもれる太陽の光が、ときどき突き刺さるように目に入ってきて眩しい。それでも俺はカーテンを閉めずに、移り変わる街の景色を胸を高鳴らせて眺めていた。 少し遠くに跳ね橋が見えて、やっと帰ってきたんだなって思う。 二週間しか離れていなかったのに、何故だか、少しずつ近づいていく跳ね橋の向こうに見える学園が、ひどく懐かしく思えた。 跳ね橋を渡り始めると、今はまだ遠いその先に何かの影が見えた。 それが七条さんだという確証は何も無かったけれど、俺にはそれが七条さんだと分かった。 近づくにつれはっきりしてくるその姿は、思っていた通り七条さんだった。 いつものようにその顔にいっぱいに笑みを湛えてこちらを見ている。 窓越しに目が合うと、七条さんはバスの後ろに続いて歩いて来た。 跳ね橋の少しだけ先にあるバス停でバスが止まる。 「ありがとうございましたーっ!」 運賃を払うのももどかしく、荷物を持って慌しくバスを降りる。 「七条さーんっ!!」 荷物をその場に放り、向こうから少し笑いながら歩いてくる七条さんの所まで走り、その胸に飛び込んだ。 「お帰りなさい、啓太君。」 にっこり笑って抱き締めてくれる腕に満足しながら、七条さんの広い背中に腕を回す。 まだまだ気温が高くて暑いけれど、そんな事よりも今七条さんの腕の中に居るという事の方がよっぽど大事だからぎゅっと更に力いっぱい抱きついた。 「七条さん、会いたかったです。」 普段では伝えられなかった言葉が、すらすらと出てくる。 会えなかった二週間で、より一層高まった七条さんへの想いのせいで、恥ずかしいとか、ここがいつ誰が通ってもおかしくない道路だと言うことも忘れていた。 「僕もです。啓太君に会いたくて、これ以上あえない日が続くようでしたら、僕のほうから啓太君の家を訪ねて行くところでした。」 久しぶりの七条さんの匂いに包まれて、やっと足りなかったものが満たされていく感じがした。 七条さんの言うことは相変わらず本当か冗談か分からなかったけれど、会いたかったのが自分だけじゃないと分かるその言葉が嬉しかった。 少しだけ腕の力を緩めて見つめ合えば、七条さんの瞳に映る俺が見えて、途端に気恥ずかしくなる。 ゆっくりと近づいてくる七条さんの顔をずっと見ていたかったけれど、そっと瞼を閉じて七条さんの唇が落ちるのを待つ。 最初はちゅっと音がする浅いキスを繰り返す。 頬に、瞼に落とされる唇がくすぐったい。 「わわっ。ちょっ、しちじょ・・・・・さんっ。」 少しずつ深くなるキスに、自然と呼吸が荒くなる。 長いキスが終わる頃には立っているのもやっとで、気がつくと俺は七条さんに縋り付いていた。 「さあ、帰りましょう。僕の部屋へ。」 ふわりと体が宙に浮く。 いつもより高い所にある目線のせいか、見慣れた景色が新鮮に思えた。 「重く・・・ないですか?」 所謂お姫様抱っこをされている状況に気が付き、おずおずと尋ねれば。 「啓太君は軽いですよ。」 いつもの笑みで軽く否定されてしまう。 「部屋までこのまま帰りましょうね。」 七条さんの悪戯な微笑みは、ちらりと背中に見えた気がした黒い羽とセットの様な気がした。 いつもより楽しそうな七条さんの首に手を回して抱きつくと、七条さんはゆっくりと歩みを進めた。 俺が放り投げた荷物は、七条さんの手によって今は俺の上に乗せられている。 道すがら投げられる視線はとても気にはなったけれど、そんな事どうでも良いくらいに俺は久方ぶりの七条さんのぬくもりを堪能していた。
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間に時間を置いてあった割に、今回もかなり短いですね。 ははは。 これはもう笑うっきゃないです。 笑ってください。 本当にもう、なんでこんなにも時間がかかるのでしょうかねぇ・・・・。 自分でも、そこの所は謎です。 淋しがり屋の啓太君、2回目で七条さんと再会。 展開速すぎですよね。 七条さんだったら、きっと駆け寄る啓太君を両腕を広げて待ち構え、抱きしめ、ぐるぐるぐる・・・・と回しますよ。 「会いたかったです。」 「俺もです。」 なんて、周りには幻想花でも飛んでそうですね。 見ている方が恥ずかしいですよ。 きゃー。 書いてる自分も恥ずかしいです。 しかしながら、こんな所で息切れを起こしている場合ではないのですよ。 そう・・・・私には使命があるのです。 続きを書かなければ。 早いところ完結させて、この痒みを抑えて見せますっ! ではでは、お付き合い感謝です。
葵葉奈でした。 |