一筆一筆思いを込めて。 丁寧に、丁寧に。 決して嘘や冗談だと思われないように。 ”好きです。” 便箋のまん中にそれだけを書いて、封筒に入れた。 こんな気持ち、自分でもどうかしてるんだって事位分かってる。 それでも「伝えたい」って気持ちの方が強くって、このまま何も伝えずにいるなんてしたくなかった。だから、思い切って昨夜書いた手紙を七条さんに渡した。 本当なら自分の口で、ちゃんと向き合って、目を見て言いたかったんだけれど、本人を目の前にすると、どうしても言えなくなっちゃうから。 こんなの勇気がない自分に対する言い訳でしかないんだけれど、あえて俺は気持ちを手紙に託した。 ラブレター いつもの会計室。 西園寺さんが休憩に東屋へ行くと出掛けて行った後、二人きりになってしまった室内。 うっすらと赤み掛かった部屋の中は、不意に途切れてしまった会話の所為で静かだ。 「伊藤君、僕たちもお茶にしませんか。実は今日クッキーを持ってきたんですよ。」 言いながら、七条さんは取り付けられている簡易給湯室へ入っていく。 七条さんと二人きりになれるチャンスなんて、もしかしたらもう無いかも知れない。 渡すなら今しかない。 そう思って、まだ少しだけ迷っていた気持ちを奮い立たせた。 「あのっ・・・七条さん。」 二人分のカップとソーサー、紅茶の入っているポットに砂時計などをトレーに乗せて持って来た七条さんの目の前に薄いブルーの封筒を差し出した。 「手紙・・・。これを僕に、ですか。」 そう言われてこくこくと頷くと、七条さんはにっこりといつもの微笑を浮かべ、持っていたものを机の上に置くと、俺が差し出した封筒を受け取り、目の前で開封し始めた。 「あの、それ・・・。部屋で、一人の時に読んで貰えませんか。」 慌てて止めに入った俺を、少しだけ不思議そうに見た後、七条さんはそれを胸ポケットにしまってくれた。 「分かりました。ちゃんと部屋に帰ってから読みますから、そんなに心配そうな顔をしないで下さい。」 ゆっくりとした動作でもって七条さんの大きな手が俺の頭を撫でる。 それがこの上なく気持ち良くって、うっとりとしてしまう。 「さあ、紅茶が冷めてしまいますから、いただきましょうね。」 少し低めの七条さんの穏やかな声。 やっぱり好きだなぁ・・・ってそう思う。 七条さんが出してくれたクッキーはやっぱり凄く美味しくて、ほっぺたが落ちそうになる。 「美味しいですか?」 「はいっ、すっごく美味しいです。どこの店のなんですか?」 そう聞くと、七条さんは悪戯っぽい顔でウインクした。 「実はそれ、僕の手作りです。」 「ぇえっ!」 俺が驚くと、七条さんはまるで悪戯が成功した子供みたいにくすくすと笑った。 そんなこんなで何事も無かったかの様に時間は流れた。 いつも通りのゆったりとした時間が、どきどきと昂っていた感情を宥めてくれた。 15分位して西園寺さんが戻ってきて、普段通り6時半に3人揃って会計室を後にした。 帰り道はもうすっかり暗くなっていて、街灯が無かったら遅くまで学校に残っていなかったに違いない。 「じゃあ、今日もお疲れ様でした。」 「ではな。」 「また明日もお願いしますね。」 少しだけ長い帰り道も、西園寺さんと七条さんの話を聞いているとあっという間だ。 俺には難しい話も、2人は分かる様に話してくれるから凄く面白くて夢中になっちゃう。 「はぁ・・・。」 玄関の所で2人とは別れて、一人部屋に立って口から零れたのは溜息。 2人といるは本当に楽しかったんだけれど、俺の気持ちを書き留めた手紙を七条さんが持っていると思うとやっぱり緊張してしまったみたいだ。 「ふぅ・・・。」 ドアを閉めて鍵を掛ける。 緊張が抜けた所為で力が抜けて、その場に座り込んでしまった。 もう、七条さん手紙読んだかな。 まだ読んでないかな。 七条さん、どう思うかな。 気持ち悪いって思われたらどうしよう。 明日からどんな顔をして七条さんの前に出ればいいんだろう。 もう顔も見たくありません。なんて言われたら・・・しばらく立ち直れないかも。 考えれば考える程どつぼに嵌っていく気がする。 食堂に行って七条さんと会っちゃったら怖いから、部屋に買い置きしておいたパンを齧る。 いつもなら甘くて美味しいクリームパンだけれど、味が分からない。 結局半分位食べて後は残した。 少し熱めのシャワーを浴びて、早々にベッドに潜り込んだ。 初お題です。 他にも続いているのがあるのですが、こちらもまた続いてます。 自分で自分の首を絞めていると言われ、気付きましたが、もう遅かった模様です。 ちょっと甘くないかも知れません。
葵葉奈でした。 |