そう・・・・ きっとこの気持ちは 初めて会ったあの日のうちに 俺の中に芽生えていた。 ラブレター3 頷いたのは思わずだった。 嘘じゃないけど、頷いたらどうなるか想像しただけで怖くて頷けなかったのに、七条さんの悲しそうな顔を見た途端、怖いのなんかどこかへ飛んでいってしまった。 俺はただ頷いただけ。それだけなのに、悲しそうな七条さんの表情ががらりと変わり、途端に和らいだ瞳で見つめられた。 「間違い・・・・・ありません。それは、俺が書いた・・・七条さんに宛てた手紙です。」 その瞳に勇気付けられるようにそう言うと。 「その言葉、もう撤回させませんよ?」 悪戯っぽい口調で返される。 でも、その口調とは裏腹に、まじまじと俺を見つめる七条さんの瞳は真剣で、俺はその紫色の瞳に囚われる。 この気持ちが嘘だと思われたくなかったから、信じてもらえるように、じっと見つめる七条さんの目をまっすぐに見つめ返す。 「撤回なんて・・・・絶対にしません。」 そう言った途端に抱き締められていた腕が解かれ、その代わりに両肩を掴まれる。そして、七条さんをじっと見上げる俺の顔中にキスの雨が降らされた。 「ちょ・・・っ、七条さん!?」 自分に何が起きているのかさっぱり分からない。 「絶対に、絶対に撤回なんてしないで下さいね。でないと泣いてしまいますからね。」 でも、・・・・良かった。 怒ってない。 嫌われてないんだ。 それだけで十分。 嬉しくて、嬉しくて、七条さんの顔を見つめる。 やっぱり格好良いな。 俺を見下ろす七条さんの表情がすっかりいつもの笑顔に戻った事に、ほっと胸を撫で下ろしたのもつかの間。 ぽたり。 俺を見下ろす七条さんの瞳から、涙が零れ落ちた。 ぽたり、ぽたり。 次々に俺の顔に落ちてきた涙は、そのまま頬を伝い首筋に流れ落ちた。 「七条さん?あのっ、絶対に絶対に撤回なんてしませんから・・・・だから、泣かないで下さい。」 「え・・・?」 俺が何を言っているのか理解出来なかったらしい七条さんが、きょとんとした表情で俺を見る。俺は、そんな七条さんの顔に指先を伸ばし、涙を拾い上げる。 七条さんの涙の暖かさが指先から伝わって、俺まで何だか涙ぐんでしまう。それを誤魔化す様に、拾い上げた涙に唇を寄せた。 「・・・しょっぱい。」 俺の言葉に、七条さんは少しだけ大きくした目で俺を見る。 「伊藤君だって。」 近付いてくる七条さんの顔に思わず目を閉じる。 ちゅっ。 閉じた瞼の端を吸われてびっくりして目を開くと、そこには少しだけ目元を赤くしたいつもの笑顔があった。 「ふふっ、伊藤君の涙もしょっぱいですよ。」 ちゅっ。 七条さんの台詞に赤面してしまった俺のもう片方の瞼の端が吸われる。 「んっ。」 それがくすぐったくて、身じろぎをして逃れようとしたけれど、七条さんは止めてくれない。 「七条さん、くすぐったいです。」 堪らずに笑いながら訴えたら、きゅっと頭を抱きかかえられてしまった。 あったかい七条さんの腕の中でじっとしていると、やっぱりとくんとくんと心臓の音が聞こえてくる。でもそれは、さっき聞こえていた心音よりも穏やかで、優しい音色の様に俺を安心させてくれる音に変わっていた。 「・・・・伊藤君。」 呼ばれてすぐに顔を上げようとした俺の行動は、七条さんによって阻止されてしまった。 「どうか、そのまま聞いて下さい。」 落ち着いた低い声。 大好きな七条さんの声。 いよいよ返事を聞かされるんだな。 そう思ったけれど、さっきまで怖かったのが嘘みたいだ。 嫌われてないって分かっただけで、俺には十分嬉しい出来事だった。 七条さんが真剣に受け止めてくれたのは十二分に分かっている。だから、振られるのは分かっていたけれど、気持ちは満たされていた。 すぅっと七条さんが息を吸い込むのが分かって、俺も覚悟を決めて目を閉じた。 「僕の方が・・・・君よりももっと、ずっと伊藤君の事が大好きですよ。」 ビックリしてぱっと見上げると七条さんはやっぱり楽しそうに笑っていた。 「えっ・・・」 驚いてそれ以上声も出ない。 「おやっ、聞こえませんでしたか?では、よーく聞いて下さいね。・・・・僕の方が、伊藤君の事を誰よりも、伊藤君が僕を好きだと言ってくれる気持ちよりも、もっと、ずっと大好きだって言ったんです。」 本当に? 俺の事が好き・・・? 七条さんが? これって、夢・・・じゃないよな。 きゅっとつまんだ頬が痛かったから夢じゃない。 夢じゃないんだ。 「俺の方が七条さんよりも誰よりも、もっと、ずっとずっと大好きです。」 七条さんの言葉を聞いて、俺はそう言わずには居られなかった。 だって、俺の方がもっとずっと七条さんの事を好きだから。 「いえいえ、僕は伊藤君が言うよりも、もっともっと愛していますよ。」 告白するまでに散々悩んだんだから。 「いいえ。絶対、俺の方が七条さんよりも、もっともっともーっと七条さんの事愛しています。」 そこまで2人で言い合いをして目を合わせると、どちらからともなくくすりと笑った。 そっと降りてくる七条さんの唇を、俺は目を閉じて受け止める。 両思いになって初めての、2人だから出来る事。2人じゃないと出来ない事。 少しずつ深くなる口付けが今はまだ苦しいけれど、大好きな七条さんとだからそれさえも嬉しい。 甘いものが大好きな七条さんの唇は、やっぱり俺の大好きな甘い味がした。 嬉し恥ずかし両思い。 一筆一筆思いを込めて。 誰よりも好きだと伝えたい。 だって、初めて会ったあの日から。 ずっと、ずっと好きだった。 勇気を出して。 やっと伝えた気持ちだから。 間違いなく、確実に。 愛してるってこの気持ちが伝わりますように・・・・。 お・・・終わりました。 もう駄目だと何度思ったことやら。 ぜいぜいしながらここを書いています。 最後はちゃんと甘くなりました・・・よね? ラブレター。 貰った覚えは生まれて2×年、一度も貰った事も書いた事もありません。 記憶を辿ってみてビックリです。 郵便屋さんのお役目は何度も頼まれた覚えがあるのにな。 俊介みたい? きっとこの後、2人の世界にどっぷり浸かる事でしょう。 しかし、七条さん曰く。 「ここから先は、もったいないのでヒミツですv」 だそうです。 葵葉奈でした。 |