おねだり



おねだり  




 一日の授業も無事終えた放課後。
 いつもの様に生物室でちょっとした実験をしていた所に、僕の生徒兼恋人の伊藤君がやってきた。
 興味津々といった様子で、元々大きめの瞳を更に大きくして僕の手元をじっと見詰めている。
 そんな所ももう凄く可愛くて、今すぐにぎゅっと抱きしめたくなる。
 でも、今は実験中だし、薬品を扱っているから手を離すわけにもいかない。
 残念だなぁ。

「ねえねえ。伊藤君は僕の事好きだよね。」

 僕の問いかけに、伊藤君ってば顔を真っ赤にしてうろたえた。

「はい・・・・。」

 それでも真っ直ぐに僕を見て、耳まで真っ赤にながら肯定してくれた健気な姿が本当に可愛い。
 こんなに可愛い生き物が僕の恋人になってくれた。
 きっと、今迄で一番の幸せ。
 でも、彼を狙っていたのは僕だけじゃないから少しだけ不安もある。
 彼を手に入れる前も手に入れた今も、いつか彼が、他の人に心奪われる日がくるんじゃないかという不安が付き纏う。
 そんなに可愛く見つめられると、悪戯しなくちゃいけない様な一種の使命感みたいなものが、僕の胸の奥から湧き上がってくる。

「じゃあ、僕のお願い聞いてくれるよね。」

「・・・・・。」

 僕が言った瞬間、彼はピキリと固まってしまった。
 もしかして、また新薬の実験だと思ったのかな?
 まあ、それでもいいんだけれど、それよりもっと楽しい悪戯を思いついたから新薬はまた今度にしようと決める。

「ね?」

 ほんの少し青ざめた顔をしたけれど、彼は最後には必ず僕のお願いを聞いてくれる。

「・・・・はい。」

 ほら、また。
 少しだけ悩んだみたいだけど、しょうがないなぁって顔をして僕のお願いを聞いてくれる。
 こんな時の表情が好き。
 困った様なそれでも本気で嫌がってはいない。
 それが分かる瞬間、やっぱり僕って愛されてるんだなって実感できて、幸せな気分に浸れる。

「ちゅー・・・して?」

「っ!」

「だって、僕の方が背が低いから伊藤君に届かないじゃない?」

 伊藤君が椅子に座れば関係無いケド。
 僕の言葉にすっかりパニックになっちゃっている伊藤君はどうせそんな事気付かない。

「ダメ?」

 僕の肩口から覗き込んでいた彼の首筋を引き寄せて、彼の唇を僕のそれで覆った。
 ちゅっと、わざと音を立てて唇を離す。

「・・・・・なんてね。嫌だなんて言わせないよ。キミが僕の気持ちを知った時から、キミは僕のものなんだから。」















 海野先生のおねだりのお話です。
 って、タイトルそのまんまですね;




04.08.29
改稿 09.04.04
                                  葵葉奈でした。