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 昼間、普通に学生生活を送っている分、俺の理事長としての仕事は大抵夜か休日に済ませる事となる。
 今日もまた、いつもと同じ様に仕事を済ませて寮の部屋に戻ると、ドアノブに無地のビニール袋がぶら下がっていた。

「何だろう?」

 不思議に思いながらも、がさがさと袋を手に取って中身を取り出した。

「?」

 中に入っていたのは綺麗に包装された平べったい長方形の箱。
 俺はドアを開けて電気をつけると、箱を包むその紙をびりびりと剥き、そのままゴミ箱へと投げ入れた。
 何の変哲も無い白い箱。
 上下に振るとかさかさと音がした。
 蓋と入れ物とをぴたりとくっつけているテープを剥がしてその蓋を開ける。

 『Dear.和希
 
       誕生日おめでとう。
 
              From. 啓太  』

 シンプルなデザインのカードに直筆の丁寧な文字。
 そのメッセージを見て、時計を見る。
 時計はもう六月九日の十二時半を示していた。

「啓太・・・・。」

 可愛い恋人の計らいに、嬉しさが込み上げる。
 チュッとカードにキスをして、ベッドに腰掛けてカードを自分の隣に置こうとして、裏にもうひとつメッセージが書かれている事に気が付いた。

『P.S
    みんなには内緒で、二人きりで行きたいな。 』

 デートかな?なんて考えながら、再び箱の中に目をやると、『箱根・温泉旅館ペアご招待券』と印刷されたチケットが一枚入っていた。

「啓太と温泉旅行か・・・・。」

 はぁ・・・と想像を膨らませ物思いに耽った。







 どれくらいそうしていたのだろうか。

「デンワダヨ。デンワダヨ。」

 急に鳴り出した携帯の呼び出し音に、思わずビクリと肩が跳ねた。

「ったく、いい所だったのに。」

 胸ポケットから携帯を出しながら腕時計で時間を確かめる。

「こんな時間に一体誰だよ・・・・。」

 午前二時過ぎを指す時計の針にうんざりしながら、折りたたんであった携帯をぱかりと開き画面を確認する。

「・・・啓太っ!?」

 画面の中をくるくると走り回るミニチュア啓太。
 この画像は啓太からの着信の時だけの設定になっている。
 急いで通話ボタンを押す。

「あっ、もしもし。和希?」

 電話の向こうから聞こえてくる啓太の元気な声。
 この声を聞くだけで、仕事の疲れも吹っ飛んでしまうのだから、我ながら現金な性格をしていると思う。

「けっ・・・啓太か?」

 慌てた所為で多少どもりながらも相手が啓太であることを確認すると、電話の向こうで啓太が遠慮がちに笑った。

「うん。夜遅くにごめん。もう、仕事終わった?」

 さり気ない気遣いにじんっ・・・と胸が熱くなる。

「ああ。」

「そっかぁ・・・・。こんなに遅くまで仕事じゃ、きっとすっごく疲れたよな。お疲れ様、和希。」

 労わる様な啓太の声に、じんっ・・・と胸が熱くなる。

「ありがとう。こんなの啓太を抱きしめればすぐに癒えちゃうよ。」

 冗談交じりに言えば、啓太が苦笑いしている。

「もうっ、和希ったら。俺、まじめに言ってんのに・・・・。」

 ちょっと甘えた様な啓太の声を嬉しく思いながらも、時間からして啓太が起きている様な時間でない事を思い出す。

「それより啓太、まだ寝てなかったのか?」

「・・・うん。実はちょっと眠かったりもするんだけど・・・・さ。」

 もじもじと、中々分けを言いたがらない啓太に、少しだけもどかしさを感じながらも、だんだん小さくなっていく啓太の声に耳を傾ける。

「何かあったのか?」

 もしかして、と胸に不安がよぎる。

「今から和希の部屋に行ってもいいかな?」

 俺の問いには答えずに、啓太は眉根を寄せた時の様な心細げな声で尋ねる。

「もちろん。啓太なら二十四時間いつでも大歓迎だよ。」

 トーンダウンした啓太の問いに、出来るだけ陽気に答えてやる。
 恋人同士となっても可愛い事を聞いてくれる啓太に俺がクスリと笑うと、電話の向こうで啓太も笑った気がした。

「ありがと。じゃあ、今からそっちに行くね。」

 急に明るくなった啓太の声にほっと胸を撫で下ろす。

「待ってるよ。」

「じゃ、切るね。」

「ああ。」


 トントン。

 電話を切って十秒と待たないうちにドアがノックされる。

「あ、啓太っ。早かったな。」

 ドアを開け、少し眠そうな顔をした啓太を迎え入れる。

「俺、どうしても一番初めに直接言いたくて・・・・。」

「うん。」

 啓太の話を聞きながら、部屋の奥にある冷蔵庫から缶ジュースを二本取り出す。

「俺、和希の部屋に向かいながらしゃべってたん・・・・。」

 変な所で区切るなぁ・・・と思って振り向くと、啓太が俺に向かって駆け寄って来た。

「・・っだ!!」

 ぎゅっと抱きつかれてびっくりしている内に、唇に暖かいものが触れる。
 なんとか啓太を抱きとめて、啓太からのキスに答える。

「誕生日、おめでとうっ!」

 言いながら、耳まで真っ赤にした啓太がもう一度俺の唇に触れた。

「ありがとう、啓太。」

 尚もキスを続ける啓太に、俺は持っていたジュースを床に転がし、触れられた唇を今度は自分から啓太のそれに重ね合わせた。
 次第に深くなる口付けと共に夜の闇はゆっくりと白く霞み、窓に掛けたカーテンの隙間からは太陽の光が細く部屋を照らした。
 床に転がった缶ジュースは汗をかいていて、表面についた露がきらりと光った。




 特別な一日はまだ始まったばかりだから

 腕の中で眠る愛してやまない大事な恋人の瞼にキスをして

 俺はゆっくりと目を閉じた。



 俺にとって

 今までで一番特別になった俺の誕生日。




















和希っ、お誕生日おめでとう!
遅れてごめんねぇ〜。

本当なら6月9日にUPしようとお話は考えていたのに、風邪を召してしまい今頃打ち込みました。
和希が主役のお話は何気にこれが初めて!?
和希ってどんなだろうなぁ・・・・と考えながら出来上がりました。
最初に出来上がったのは、もっと変態チックでした。
しかしながら、いくらなんでも誕生日にこれじゃ可哀想かな?と思い直し、大幅に修正してここまで普通の人っぽく。
・・・・なってますよね?
ねっ!?
因みに、「デンワダヨ」の声は、和希がクマちゃん用の声で自分で録音したものだったり(笑)

多少(?)和希に変態感は残りましたが、和希の誕生日のお話完成です。
いぇいっ♪


葵葉奈でした。

04.06.24