高嶺燈馬様から相互の記念に頂きましたvvv「Love」なのです。









 ●Love.●


















「はぁ・・」



知らずため息を漏らせば、無遠慮な視線。



「臣」

「仕方ないじゃないですか。伊藤君が居ないんですから」

「・・・啓太が居なければそんなに退屈か?」

「退屈です。すごく」



『素直になれ』というから、素直になったのに、

素直になればなったで嫌そうな顔を向けるのだから、

彼も、大概我侭だと思う。



「何でそんなに不機嫌なんだ」

「伊藤君がね、来てくれないばかりか、二人きりでゆっくりお話もしてくれないんです」



嫌われてる、というわけではないんだろうけれど。

彼の視線は、真っ直ぐ過ぎる程に僕を見てくれるから。

だけど、何が忙しいのか、常にバタバタとしていて。

会計部に顔を出してくれないばかりか、休み時間にもすれ違うことの多いこの頃。

3日も経てば、辛抱強いとはとてもいえない自分が、不機嫌になるのは当然。



「ならば迎えに行けば良いだろう」

「良いんですか?」

「構うか。そんな状態のお前が同じ部屋に居る方が仕事能率が下がる」



無駄に食い下がるのは止めて。

大人しく席を立つ。

外はまだ陽が沈んでいないけれども、

そこまで言われては、仕方ない。



「じゃあ、失礼します」



その言葉に、郁は答えないで、ひらひらと手を振るだけで僕を見送った。





































「あーもうっ」



ぐしゃっ、と握りつぶして。

ゴミ箱に投げる。

ゴミ箱を効率的に使うには、紙類は丸めるよりもたたんで捨てた方が多く入れられるだとかなんとか、

そんなことを、以前部屋の掃除を(何故か)手伝ってくれた篠宮に教えてもらった気もするが、

今の啓太にそんなことを思い出している暇はない。



また新しくゴミ箱に紙が入る。



「うー・・・どうしよう。止めようかなぁ」



頭を抱えてしまうのも、無理はない。

何せ、国語の成績だって中くらい。

文章を作る能力に長けていない。

とはいっても何かの能力に長けているわけでもないのだが・・・。



でも、止めたいとは思わない。

書くのは大変だけど、

どうしても、どうしても書きたいと。

どうしても伝えたいと。

そう思ってしまったので、今更止めることは出来ない。

止めても良いのだけど、止めたくない。

渡したときのこととか、後のこととかはあんまり考えてない。

考えているのは、ただ彼のことだけ。



「・・・会いたいなぁ・・・」



はぁぁ・・と深くため息。

会いたいなぁ。

でも、時間がなくて会えない。

出来るだけ早く書いてしまいたいと思い立って早数日。

七条に会う時間を減らしてまでこうやっているのに、

あんまり努力は報われていないのか、一向に満足のいくものを書けない。

休日の時に買ったレターセットはすでにもうない。

書きなおして書きなおして、何度もそんなことをしていれば、

無限にあるわけではないのだからなくなるのも当然。

残りは、後一枚。

追い詰められた感じだ。



「・・・・・。・・・よしっ」



追い詰められた、感じではあるけれど。

購買部にレターセットが売っていないわけじゃない。何とかなる。

・・・ただ、購買部のレターセットは、青いくまちゃんマークだから使うのが恥ずかしいのが難点だ。

・・・・・・・・・・・・・流石に、そんなのに書いて渡すわけにはいかないかもしれない。

やっぱり思いなおし、これで終らせようとペンを持つ。

背水の陣。

言いすぎかもしれないが、結構そんな心情である。

最後だから、上手く行くかもしれない。

いや、上手くいかせてみる。

テストに向かうノリで、一生懸命考え・・・・・・・・・ようとして。



トントン。



ドアを叩く軽い音に、意欲をそがれる。

別にドアが悪いわけでもないが、つい睨みつけてしまう。



丹羽も中嶋も西園寺も、七条も、現在は仕事中だろう。

篠宮も成瀬も岩井も、現在は部活中だろう。

となれば、仕事の滝か暇(というわけでもないだろうが)な和希か。

これで和希だったらどうしてやろう。

半眼になりながら、声を上げる。

・・・今の啓太にとって、七条意外の人間は、もしかしたらどうでも良いのかもしれない。



「はい?」

「伊藤君?僕です。開けて良いですか?」

「し、七条さんっ!?」

「はい」

「ま、待ってください!ちょっとだけ!!」



がさがさと、紙類が仕舞われる音。

がったーんっ、と、椅子を倒して盛大な音を立ててしまう・・・。

だけど、そんなことを気にしている間もなく、とにかく突っ込む。



「失礼します。・・・・大丈夫ですか?」

「・・・は・・・・、い・・・」



七条がそう聞くのも無理はない。

何せ、この部屋を見れば誰もがそう尋ねるような惨状だから・・・。

急がば回れ。昔の人はよく言ったものだ。

七条だから良かったものの、これが篠宮だったら雷の一つも落ちているところである。

・・・いや、そもそも七条でなければこんなに慌てなかったのだが。



くすりと七条が笑う。

それに余計啓太が赤くなる。

それにまた楽しげに七条が笑むわけだから、

立派な循環である。

それが好循環か悪循環かは置いておいて。



「そ、それでっ、どうしたんですか、七条さん!」

「ああ・・。ちょっと君に会いに来たんです」

「お・・俺に・・・ですか?」

「はい。君に、です。他に理由はないんですが・・・ダメでしたか?」



こくりと、わざとらしく小首をかしげて、悲しそうに。

・・・そういわれて、啓太が『ダメ』だという可能性は万に一つもない。

そして、今回も。



「そんなことないです!」



と。

一生懸命首を振り、全身で教えてくれる。

『そんなことはない』と。



その所作に愛しさが増し、嬉しくなる。

先程までの不機嫌はとうになくなっている。



「それは良かった。ここ最近、君が僕の所に来てくれなかったから、寂しかったんです」

「あ・・・・ごめんなさい・・・」

「良いんですよ。君が悪いわけではありません」



くしゃりと髪を撫でて、悲しそうに俯いてしまった啓太を慰める。

確かに啓太が悪いわけでもないのだが、慰めているようにみえるから不思議である。



「でも、最近忙しそうでしたよね。夜ご飯もゆっくり食べないで。何をしていたんですか?」

「そ・・・・れ、は・・」

「はい?」



穏やかな笑み。

に、啓太は何故か知らない迫力を感じ、じりじりと後ろへ下がる。

とん、と背中に机が当たり。



もう下がれない、というところまで来て。

それでも、七条は近づいてきて。

背筋が冷たくなって。



隠さなくても良いじゃないか、と思う心もあり。

驚かせたい、から隠したい、と思う心もあり。

課題とでも適当に言えば良いのかもしれないが、七条に嘘はあまりつきたくない。

まあ、ついたところでバレるのがオチなのだろうが。



「ね、伊藤君」



七条の笑みには逆らえない。

未だ啓太が汗を流しながらどうしようか考えていると。



不意に、机の隣に置いてあったゴミ箱に七条の目がいった。

大量の丸められた紙ごみ。



「・・・これは・・?」

「あっ!!ダメ、です!七条さんっ」



丸められた紙に、七条が手を伸ばし。

それを広げる前に、啓太が七条から紙を取る。



「だ、ダメなんです!」

「どうして?」

「どうして・・・て、どうしても・・」



不意に悲しくなる。

彼が、自分に対して秘密を持っていることに。

それが悲しくなって、柳眉を顰めた。



意図した悲しみの表情・・・ではない。

無意識のその表情に、啓太も困惑して青い瞳を揺らす。



「あの、七条さん・・」

「それは、僕が知ってはダメなことですか?」

「ダメ、じゃないんですけど・・・今は・・」

「・・・どうしても?」

「・・・・・・・」



追い詰める形になってしまったことに罪悪感を感じるが、だが、だからといって止める気はない。



ふいに、啓太が頬を染めた顔を上げる。



「あ、の・・・。笑わないで聞いてくださいね」

「はい」

「・・・俺・・・七条さんに、手紙書いてたんです」

「・・・手紙を?」

「・・・はい・・・。あのっ、ですね。俺、七条さんが好きで・・・」

「はい。知ってます」

「そ、れで・・。で、この前、手紙を貰ったんです」

「・・・・・手紙を?」



その言葉に、さっきとは違った理由で柳眉を顰める。

手紙を書いたという人物の名前を聞き出してしまいたいが、今は話の腰を折るべきではないだろう。

とりあえずとどまる。

無論、後ほど差出人から手紙の内容までじっくり聞かせて頂く心づもりだが。



「はい。それで・・・勿論、それはちゃんと断ったんですけど、

でも、これ、自分の心を伝えるのには良い手段だなぁって、思って・・・」

「それで、僕に手紙を書いてくれてたんですか?」

「はい・・・」



首まで、耳まで真っ赤にして、啓太が俯く。



ああもう。

どうしてくれよう、この子を。



くすりと笑みがこぼれる。



「七条さん!笑わないって・・・」

「有難う、伊藤君」

「有難うって・・・」

「君が僕を思ってくれてる。こんなに嬉しいことはありません」



ぎゅうと、力強く抱きしめられた。

強く強く。



「この数日、ずっと僕のことを考えててくれたんでしょう?」

「は、い・・。でも、俺、上手く書けなくて・・」

「良いんです。僕のことをずっと考えていてくれたなら、それだけで」



額にそっとキスを落とす。

このまま、全身にキスを落としてやりたい感じだ。



「愛してます、伊藤君」

「っ・・・・えと、七条・・さん・・・」

「全く、君はどうしてくれるんですか?僕をこんなに振り回して」

「振り回して・・・って、俺、別に・・」

「最近の僕の感情は、全て君に振り回されてます。悲しいのも、嬉しいのも寂しいのも、全部。

こんなに嬉しいのなんて、本当に生まれて初めてですよ」

「え・・・あ・・・・えと・・」



口にそっと口づける。

愛しさがそこから伝わるようにと。



「でも、伊藤君」

「は、い?」

「手紙じゃなくて、それを、直接僕に言ってくれたら。

そしたら、もっと嬉しいと思うんですが、どうでしょうか」

「へ・・・?」

「手紙のように、ずっと残って手元にあるのも良いですが・・・。

伊藤君が手紙を書くために僕の側から居なくなってしまうのは悲しいですし、

それより、伊藤君が側でずっと言ってくれてる方が、僕はすごく嬉しいと思うんです」

「え・・・と・・」

「どうでしょう?」



つまり。

手紙にかいたようなことを、

今、ここで言ってくれと。

そう言われて、いるようで。



ぼんっと顔が赤くなる。



「し、ちじょうさんっ!?そんな、俺っ」

「はい」

「〜〜〜〜〜っ!!」



恥ずかしくて、

だけど、嬉しそうな七条の笑顔には逆らえなくて。

ぱくぱくと、酸素を求める金魚のように口を開閉する。



「さぁ、伊藤君?」



ここまで言われて、抱きしめられて。

それで逃げられるようなら・・・それは啓太じゃないだろう。

観念したかのように、抱きしめられたまま、七条の制服の端っこを掴んで。

真っ赤になった顔を、耳元へ近づけて。

ただ。一言。



「                」



それだけを。



「あの・・・これじゃ、ダメですか・・・?俺、まだ全然考えてなくて・・」

「とんでもない。十分ですよ、伊藤君」



啓太程、とは流石にいかないものの、

少しだけ・・・ほんとに、少しだけ頬を上気させて、七条が微笑む。



長年培われてきたポーカーフェイスなのに。

こうも簡単に彼はなくしてしまうから。



「それを、ずっと言ってくれれば。僕はもう、それだけで生きていけます」

「大げさです!」

「ふふ。そうかもしれませんけど、でも、それくらい嬉しいんです」

「七条さん・・」



ああもう、どうしてくれよう。ホントに、この子は。



「こんなに僕を嬉しくさせて、どうするんですか。もう」

「なっ・・七条さんが言えって・・・」

「言いましたけど、まさかこんなに嬉しいなんて、僕も思ってなかったんです」

「そんなこと言われても・・・」



困ったようにうろたえる啓太の首筋に顔をうずめて。

・・・だって、こんなににやけた顔を見せて、幻滅されたらたまらない。



「ホントに、どうしてくれるんですか」



手放せなくなる。

この存在を。



「・・・好きです、七条さん・・」

「ふふ。有難う御座います」

「有難う・・って・・」

「・・・・もう1回言ってください」

「え・・・・?」

「もう1回」

「・・・好きです・・・ってば」



ねだれば、ねだった分だけ。

何度も何度も、気持ちを込めて、言ってくれるから。

手紙なんかよりも、全然良い。



それからそっと口づけて。

後はもう、いつもの通りに。



手紙なんていらないくらい、

ずっとずっと、側に居て。

そんな願いも、口づけに乗せて。


























●あとがき●

葵様へ、相互リンクのお礼ということで捧げさせていただきます。
長らくお待たせしてしまいました・・・。
『振り回される七条さん』
・・・いや、正確には『啓太にぶんぶん振り回される七条さん』
セリフがわざとらしいとか言わないでください・・・・・。
ラブレターの一言は、考えてください。
色々考えたのですが、何だか変な感じだったので。
皆様の想像力を働かせてください。

七条さんの感情は全て啓太によって構成されてます。
ダメですか?(笑)
案外楽しそうですね、七条さん。
最後のあたりはまるっきしバカップルなんですけれども。
・・・結構幸せそうですね、貴方。

これからも宜しくお願いいたします。葵様。
相互リンク有難う御座いました。

















相互リンクの記念で、素敵なお話をいただきました。
高嶺様、ありがとう御座いました。
私からのリクエストは「啓太君にぶんぶんと振り回される七条さんのお話」でした。
七条さんも啓太君も可愛らしくて可愛らしくて、ぎゅぎゅぎゅぎゅぎゅ〜ってしたいです!!



                                  葵葉奈。