ふ、と。
目が、
覚めた。
●HAPPY●
・・といっても、
多分、意識まで覚醒しているわけではなく。
ただ、
目が開いただけのこと。
だけど、目が開けば、視覚から伝わった情報を脳は分析する。
そっと、啓太が指を伸ばした。
他は七条に抱かれているために動かないけれど、
何とか、片腕だけは、動いたから。
そっと、
眠る七条の頬をたどる。
紫の瞳は閉じられてて、
泣き黒子が目立つ。
『泣き黒子のある人は、泣き続けて不幸になるのよ』なんて言ったのは、誰だったっけ。
確か、昔のクラスメイトの女の子。
ませたように、言ってたっけ。
この人も、泣き続けて不幸になるのかな、と思ったけど。
・・・それは、俺も嫌だなぁ、なんて。
ぼうっとした頭で考える。
この人が幸せになるには、
どうしたら良いんだろう。
考える。
「・・・ん〜・・・」
考える。
けど、
思いつかなかった。
思いつかないけど、
七条さんには、幸せになって欲しいなぁ、なんて、考える。
「・・・どうしたんですか・・?伊藤君」
泣き黒子をそっと指で撫でたからか、
七条の瞳が、ゆっくりと開かれた。
「起きちゃったんですか?」
頬に伸ばしていた指を取られて、
七条に、ちゅ、と、口づけられる。
「・・何を考えていたんですか?」
何かを。
考えていたんだけれど。
・・・なんだっけ。
「・・・七条さんが・・・幸せになって欲しいなぁ・・・って」
経過を全て端折って、結論だけを言う。
その結論に、七条が首をひねるけど。
すぐに、微笑んで。
「僕の幸せは、伊藤君が幸せで居てくれることですよ」
「・・・俺が・・?」
「はい。だから、ずっと幸せで居てくださいね、伊藤君。でないと、僕は泣いちゃいます」
「七条さんが泣いちゃうの、嫌です」
「そうですか?」
「はい」
くすくすと笑う七条を見て、
啓太が首をかしげる。
手を取って、口づける行為も、普段ならば真っ赤になって怒るのだろうが、
元々、寝起きの悪い啓太のこと。
思考回路が上手く働いていなくて、
何をされているのか、よくわかっていないのだろう。
ただ、なすがままになっている。
「七条さんのこと、俺が幸せにしますから」
そのセリフに、
七条がきょとん、とした後に笑い出す。
「そうですね・・・。でも、それは僕が伊藤君に言う言葉ですよ」
「・・・そうですか?」
「はい」
まるで、プロポーズのような。
そんな言葉をいただけて。
至極光栄なのだけれど。
「僕は、伊藤君が側に居て、笑ってさえ居てくれれば幸せなので。僕が伊藤君を幸せにしていきます」
「?そうなんですか?」
「はい」
笑顔で頷いたのだけれど。
それじゃあ、啓太の気が収まらないらしい。
「・・・何か、ないですか?」
「何がですか?」
「俺が、七条さんに出来ること」
その言葉に。
七条が、少しだけ考えて。
「・・・でしたら、伊藤君」
「はい」
「ずっと、僕と一緒に居てください」
『?』と、啓太が首をかしげる。
何で今更そんなことを言うのか、わからなかったから。
「・・・そんなことで良いんですか?」
「はい。それでもう、十分です。浮気なんか、しちゃ駄目ですよ?」
「しません、そんなこと」
もぞり、と啓太が腕の中で動いた。
が、捕まえる腕を緩める気は、七条にはさらさらない。
逃げないとわかってはいるものの、
もう少し、この感触を楽しんで居たいというのが本音だった。
「伊藤君。あともう少し、寝てても大丈夫ですよ」
時計を見れば、
まだ、あと少しなら寝ても大丈夫。
この後は、休日だから二人で一緒に遊びに行く予定を立てているけれど、
いくら何でも出かけるには早い時間だし、啓太もまだ眠そうだった。
「時間になったら、また起こしてあげますから。もう少し寝ててください」
「・・はい・・」
ぽんぽん、と背中を叩けば、
結局、意識は覚醒しなかったのか、すぐに寝息が立つ。
今度は七条が啓太の頬をたどるが、
こちらは起きる気配が全くない。
「可愛いですねぇ、本当に」
ふふ、と笑みを漏らす。
自分の幸せを願ってくれた人なんて、初めてだった。
「・・本当に」
ちゃんと寝ているのを確かめて、
触れ<るだけのキスをする。
「君が居れば、僕は幸せなんです」
どう言ったって、理解してくれないであろうことだけど、
それだけだから。
君が居れば幸せ。居なくなったら不幸せ。
簡単なこと。
でも、ひどく重要なこと。
彼も同じ気持ちでいると嬉しいのに、と思いながら、
七条も目を閉じる。
急がなくても、ゆっくり伝えていけば良いか、なんて思いながら。
心地よいまどろみに、身をゆだねた。
高嶺燈馬様から頂いた20000打記念のSSです。
気だるげな二人の朝の風景にほんわりとしてしまいました。
甘い雰囲気たっぷりで読んでいて幸せになれちゃいましたvv
高嶺様、素敵なSSをありがとうございました。
葵葉奈
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